はじめに
「自分の理想の空間をつくって、好きな人たちに囲まれながらお店を始めたい」——それは多くの方にとっての「夢のかたち」です。
ですが、現実には、「内装にこだわったのに思うようにお客様が来ない」「想定以上にお金が出ていき、苦しくなってきた」といった声も、決して少なくありません。
お店づくりは、単に“空間を飾る”ことではありません。“経営を続けていくための仕組み”として設計されるべきなのです。
この記事では、これまで店舗デザインや開業支援に関わる中で実際によく耳にした「開業前に見落とされやすい5つのポイント」について、はじめての開業を目指す方にもわかりやすくご紹介いたします。
1. コンセプトを「言葉」で言えるか?
「なんとなく、居心地のいいカフェをやりたい」「女性が入りやすいサロンにしたい」このような“雰囲気ベース”の開業構想を持つ方はとても多いです。
しかし、開業準備やデザインを進めるにあたって、最も大切なのは「誰に」「何を」「どうやって」届けるのかを“明確な言葉”で説明できることです。
コンセプトをつくるための3つの問い:
– 誰に来てほしい?(ターゲット像)
– その人は、どんな生活をしている?(価値観や日常)
– その人が喜ぶ“価値”とは?(自店の強み)
2. 客単価と席数で、売上はすでに決まっている?
店舗ビジネスでは、売上の構造はある程度、最初から決まっています。
基本の式はこうです:
売上=席数 × 回転数 × 客単価
たとえば、以下のような想定で1日3万円の売上を目指すとします:
– 客単価:1,200円
– 必要来店数:約25人/日
– 席数:10席 → 1日2.5回転が必要
席数が少ないのに客単価が低ければ、いくらお客様が来ても黒字になりにくい構造になってしまいます。利益を出すためには、開業前に“数字のシミュレーション”をしておくことが大切です。
3. 店内動線が、働きにくく・居心地の悪い空間になっていないか?
デザイン性を優先してつくったら、実際は動きづらくて効率が悪かった——これは、開業後によくある悩みです。
導線設計とは、「人が自然に動けるかどうか」のルールを考えること。これは、スタッフにとっても、お客様にとっても同じです。
よくあるNG例:
– 厨房からホールまでの移動が長く、配膳に時間がかかる
– トイレに行く際、他のテーブルの横を通らないといけない
– 出入口が狭く、混雑しやすい
一方、スムーズな導線は、オペレーション効率が上がり、顧客満足度も向上し、結果的に売上・利益にもつながります。開業前の図面段階で“体の動き”をイメージすることが重要です。
4. 「集客」はオープンしてから考えればいい、と思っていないか?
意外に多いのが、「お店が完成してからSNSや集客を始めよう」という考え方です。
しかし今は、“開業前からの発信”が集客成功の鍵と言われています。
実践できる開業前アクション:
– 開業準備の様子をInstagramやブログで発信
– 地元商店街や知人のお店にチラシを置いてもらう
– オープン記念のイベントや特典を事前に告知
発信を通じてファンを「待たせておく」ことで、オープン初日からのスタートダッシュが可能になります。
5. 万が一に備えた「余白の資金」があるか?
“うまくいかなかったとき”の備えも忘れてはいけません。
たとえば…
– 工事が予定より遅れる
– 初月の集客が思うようにいかない
– 想定より広告費が必要だった
こういった事態に備えて、最低でも3ヶ月分の固定費(家賃+人件費)は手元にあると安心です。余裕があると心も安定し、判断も冷静にできるようになります。
おわりに
開業は、夢の第一歩です。
ですが、その夢を“続けられる現実”にするためには、デザインより先に考えるべき「土台」があります。
– 誰に届けたいのか
– どのように経営していくのか
– どれだけの準備があるか
見えない部分にしっかり向き合うことで、見える形として“愛されるお店”が生まれていきます。
「ちょっとでも不安があるな」と思ったら、焦らず、まずは紙とペンで考えを“言葉”にしてみるところから始めてみましょう。