近年、おしゃれで個性的なライフスタイルホテルが人気を集めていますね。特に地方都市によくある、歴史のある従来型のビジネスホテルは「ちょっと古臭い」「サービスが画一的」といったイメージを持たれがちかもしれません。
でも、ちょっと待ってください! ビジネスホテルならではの強みだって、まだまだたくさんあるはずです。
今回は、昔ながらのビジネスホテル、特に地方で苦戦しているホテルが生き残りをかけて、どのように進化を遂げればいいのか、 私が実際に湯田温泉のビジネスホテルに宿泊して感じたこと をもとに、具体的な戦略を考えてみたいと思います。
地方のホテルが直面する厳しい現実
地方のビジネスホテルは、都心のホテルに比べて、さらに厳しい状況に立たされています。
①インバウンド客の偏り: 訪日外国人観光客は、福岡・京都・東京・大阪・北海道・広島といった都市部に集中する傾向があり、地方都市への訪問は限られています。
②人口減少: 地方都市では人口減少が進み、ビジネス客や観光客の減少に繋がっています。
③競争激化: 都市部と同様に、地方でも新しいタイプのホテルが増え、競争が激化しています。
湯田温泉の現状と課題
山口市の湯田温泉は、米紙ニューヨーク・タイムズに「2024年に行くべき52カ所」に選出されました。これは、観光公害に悩まされることの少ないコンパクトな都市として、歴史的な文化や美肌の湯として知られる湯田温泉など、観光客と地域住民が足湯を囲んだ交流など地域社会としての山口市が持つ魅力が評価されたためです。しかし前年に同じく「2023年に行くべき52カ所」に選ばれた盛岡市は、令和5年度の外国人客数が平成30年度に比べて6万人以上増加し、経済波及効果は18億円以上増加したと推計されています。国内外から多くの観光客が訪れ、その流れは今も途絶えないそうです。
しかし、風光明媚な「西の京」と呼ばれる山口市は、どうでしょうか? 実際に私が湯田温泉を歩いて、その変化を探ってみました。
3連休初日にもかかわらず、観光客はまばらで、インバウンド客の誘致に苦労している印象を受けました。経済効果も限定的とのこと。「2024年に行くべき52カ所」に選出されてから1年以上経っても、期待されたほどの観光客増加には至っていないようです。
湯田温泉には、公衆足湯や日本酒の利き酒サービス、瓦そば、古き良き歓楽街など、魅力的な要素がたくさんあります。しかし、 それらを効果的に発信できていないことが課題と感じました。
地方のホテルが生き残るための戦略
では、地方のビジネスホテルは、湯田温泉の事例を参考に、どのようにこの厳しい状況を打破すれば良いのでしょうか? 私が実際に宿泊して感じたことをもとに、3つの戦略を提案します。
1. インバウンド客誘致のための多言語対応
まずは、増加する訪日外国人観光客を取り込むために、多言語対応を強化しましょう。
今回私が宿泊した、昔ながらのビジネスホテルでは、多言語対応が全く考えられていない印象を受けました。これではインバウンドのゲストを感動させることは難しいと感じました。
・公式HPの多言語化: 英語、中国語、韓国語に対応していませんでした。OTAサイトから公式HPにアクセスしたインバウンドのゲストが、他の多言語対応しているホテルに流れてしまう可能性があります。
・多言語対応スタッフの配置: 外国人観光客が安心して宿泊できるよう、多言語対応可能なスタッフの配置も必要です。しかし、私が宿泊したホテルにはいませんでした。多言語を離れる外国人スタッフは非常に優秀でホスピタリティにあふれ、野心に満ちています。積極的に多言語対応スタッフの採用をすすめてみてはいかがでしょうか?驚くほど、ゲストの口コミグッドレビューが増える可能性があります。そこからインバウンドゲスト予約が増えていく好循環を意図的に作り出しましょう!
・観光情報の多言語化: 周辺の観光情報や交通情報、チェックイン時の案内などは、多言語で提供するべきです。
今や都市部のホテルでは、インフォメーションや観光マップの多言語化、多言語でのチェックイン対応が当たり前になっています。地方のホテルも、最低限の情報提供は多言語で行う体制を整えましょう。
2. 地方の魅力を最大限に活かすための「フロントカウンターから一歩前に出た接客」
地方には、都市部にはない魅力がたくさんあります。しかし、その魅力を最大限に活かしたサービスも、ゲストに届かなければ意味がありません。
私が宿泊したホテルでは、湯田温泉街を楽しんでもらうために、甚平の貸出サービスや無料レンタルサイクルサービス、ドリンク無料サービスなどがありました。しかし、これらのサービスはほとんど利用されていませんでした。
せっかく良いサービスを提供しているのに、ゲストに届いていないのはもったいないことです。顧客満足度向上のためには、 フロントカウンターから一歩前に出たサービス が必要です。
私が宿泊したホテルのフロントスタッフの接客自体は、笑顔で過不足のない説明で、チェックイン自体はとても好印象でした。しかし、これだけでは顧客満足度が上がる時代ではありません。
フロントカウンターから一歩前に出て、ゲストに積極的に話しかけたり、地域の情報を提供したりするなど、 コミュニケーションを介した記憶に残る体験 を提供することが重要です。
例えば、私がホテル近くの足湯カフェ「狐のあしあと」で足湯につかりながら長州地サイダーと外郎ミニパフェを満喫できたのは、瓦そばを食べた地元の人気飲食店「長州屋」の女性アルバイトスタッフに教えてもらったからです。
彼女は湯田温泉の白狐伝説について聞かれたとき、うまく答えられませんでしたが(笑)、笑顔で足湯カフェを教えてくれました。
このような 心温まる交流 こそ、記憶に残る旅の思い出になります。ハード面で太刀打ちできないホテルは、サービス面で勝負するしかありません。このような光景をホテルスタッフ自らが作りあげていけるかが問われています。
しかしマニュアル化して、スタッフに義務付けしても、いい交流を生むのは難しいかもしれません。例えばゲストがホテルのバーで飲んでいたら、隣に退勤後のホテルスタッフが飲みに来て、そこでちょっとしたコミュニケーションが生まれ、そのまま湯田温泉の近くの居酒屋に行って一緒に飲んじゃったりする。サービスとして設計したマニュアルの中では絶対に成立しないような自然発生的なコミュニケーションやセレンディピティを1件でも多く作ることができるかが大切です。
採用の時点でその人のホテルに対する熱量や温度感を問うことで、ホテルへの愛があるかを確認することが大切です。自分が働くホテルのことを愛してくれていたら、自然に湯田温泉で遊ぶし、詳しくなるし、ゲストにも伝えたくなるのだと思います。こうして文章で書いていますが、それが一朝一夕でできることではないのはわかっていますが是非妥協することなく、チャレンジしてほしいです。
3. ターゲットを絞り込む
地方のビジネスホテルでは、これまでビジネス客を想定した建物・客室作りからのスタートだったため、そこから脱却できていない施設が数多くあります。これからはターゲットを明確化し、それぞれのニーズに合わせたサービスを提供することが重要です。
私が宿泊したホテルの客室は、シングルルームが中心で、過不足はないものの、面白味がない印象でした。客室構成は以下の通りです。
・シングルルーム:14㎡・69部屋
・スーペリアシングル:14㎡・13部屋
・ツインルーム:28㎡・6部屋
・ダブルルーム:25㎡・4部屋
・和室10畳・12部屋 ※1部屋5名まで宿泊できる
特にインバウンドゲストをターゲットにする場合は、ツインルームや和室の部屋数を増やし、ファミリー層やカップル層を取り込むことに意識を向けてほしいです。同伴者数を増やすことで、客室平均単価を上げ、収益改善に繋げることができます。
ファミリー向けの客室、子供向けのアメニティグッズ、近隣のレジャー施設情報など、ファミリー層のニーズに対応したサービスを提供できるかどうかで、インバウンドゲストに選ばれるかどうかが決まります。
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今回の記事を参考に、地方のビジネスホテルが新たな時代を生き抜き、さらなる発展を遂げることを期待しています!